こんにちは。Dr. NAOKI(@urarikei_career)です。
2020年1月に個人事業主として開業し、本業の給与収入とは別に、不動産賃貸業などで副収入を得ています。
これから副業を始めたい方や、副業を始めて間もない方の中には、「開業届(※)の提出の必要性」や「確定申告の必要性」について、まだよく分かっていないという方もいると思います。
(※正式名称:『個人事業の開業・廃業等届出書』)
例えば、以下のような疑問があるのではないでしょうか?
- 「売上が発生していない(収入がない)」けど、開業届の提出は必要なの?
- 「赤字が続いている(売上<経費)」けど、開業届の提出は必要なの?
- 開業届を提出したら、売上にかかわらず確定申告は必要なの?
- 副業での年間所得が20万円以下でも、確定申告は必要なの?
これらの疑問に “法律” のお話も交えながら、わかりやすく解説します。
無収入・赤字でも開業届の提出は必要?
副業を開始しても、売上(収入)が未発生だったり、必要経費が売上よりも多い赤字状態だったりするこもあります。
その場合、開業届の提出は必要なのでしょうか?
結論としては、「無収入・赤字であったとしても、事業実態があれば開業届を提出する」ことをおすすめします。
その理由としては、以下の3点が挙げられます。
- 開業届の提出が所得税法によって義務付けられている
- 社会的信用が得られる
- 青色申告のメリットを受けられる
それぞれについて、詳しく説明します。
開業届の提出が所得税法によって定められている
開業届の提出義務について
所得税法第229条によって、開業届は事業開始から1ヶ月以内に税務署に提出することが義務付けられています。
(開業等の届出)
第二百二十九条 居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。
(引用:所得税法|e-GOV法令検索)
条文にもある通り、開業届を提出することが義務付けられているのは、次の2点の場合です。
- 「不動産所得、事業所得又は山林所得の3つの内のいずれかの所得が生じる事業を開始」した場合
- 「事業所等を開設」した場合
したがって、事業所得の有無や所得額は開業届の提出条件になっていないため、無収入・赤字の場合でも、事業実態がある場合には開業届を提出する必要があります。
私のような “サラリーマン大家” さんは、不動産所得が生じるので開業届を必ず提出しましょう。
このように、開業届の提出が必要な3つの所得の内、不動産所得や山林所得はわかりやすいのですが、「事業所得」とは具体的には何なのでしょうか?
事業所得とは?
「事業所得」とは、所得税法では次のように定められています。
(事業所得)
第二十七条 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
(引用:所得税法|e-GOV法令検索)
次の国税庁の解説も参考になります。
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。
ただし、 不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は事業所得ではなく、原則として不動産所得や山林所得になります。
(引用:事業所得の課税のしくみ(事業所得)|国税庁)
なお、事業所得と認められない所得には「雑所得」というものがあります。
雑所得とは?
「雑所得」とは、所得税法では次のように定められています。
(雑所得)
第三十五条 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
(引用:所得税法|e-GOV法令検索)
例えば、「雑所得」は、主に以下の3点が挙げられます。
- 公的年金等
- 非営業用貸金の利子
- 副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)
(引用:所得の区分のあらまし|国税庁)
つまり、事業所得と雑所得には法律上の違いがあり、「雑所得」として処理されるような収入のみしかない場合には、開業届の提出は必要ありません。
「事業所得」と「雑所得」の違いを理解しましょう。
事業所得と雑所得の違いについて
ここで、副業によって得らえる収入が「事業所得」と「雑所得」のどちらで処理されるのか、いまいちピンとこない方もいると思います。
過去の最高裁の判例では、「事業所得」について以下のように述べられています。
所得税法27条1項に規定する事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうものと解される。
(引用:最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁)
つまり、単発的または不安定な収益しか発生しないような副業による所得は「雑所得」に分類されるのが一般的ですが、この判例に該当するような実態があれば「副業」というより「事業」となりますので、その場合は開業届を提出しましょう。
例えば、ブログで安定的な収益が発生している場合は、「事業所得」として認められる可能性が高いので、開業届の提出または税務署への事前相談をおすすめします(→ 税についての相談窓口|国税庁)。
開業届を提出しなかったり、開業から1ヶ月を過ぎて提出していたとしても罰則があるわけではありませんが、開業届の提出は義務であることを心得ておきましょう。
(“開業日” は開業届の提出日から1ヶ月以内に設定する必要があります)
開業届を提出することで得られるメリットもあるため、次にそのことについて説明します。
社会的信用が得られる
開業届の役割は、主に以下の2点です。
- 「開業したこと」の税務署への通知
- 「開業したこと」の証明
個人で事業を行う場合は、法人とは異なり登記手続きがないため、事業を開始したとしても、事業を行っていることを証明することが困難です。
しかし、税務署に開業届を提出することによって、個人事業主であることが社会的に認められることになります。
また、開業届を提出すると、その「控え」を税務署の受領印付きでもらうことができるため、それが様々な手続きを行う上で「開業の証明書」として役立つことがあります。
開業届の提出によって得られる社会信用上のメリットは、主に以下の5点です。
- 資金調達しやすくなる(金融機関からの融資など)
- 事業用口座を開設できる
- 事業用クレジットカードを申請できる
- 助成金や補助金に申請できる
- キャッシュレス決済を導入できる
これらは、事業を拡大・成長または再生させる上で、すごく大きなメリットとなります。
青色申告のメリットを受けられる
開業届と同時(または定められた期限内)に青色申告承認申請書を税務署に提出することによって、青色申告することが可能となります。
青色申告のメリットは、主に以下の5点です。
- 給与所得などの他の所得と損益通算できる
- 青色申告特別控除(10万円、55万円または65万円)を受けることができる
- 青色専従者給与(家族への給与)を経費に計上できる
- 損失額(赤字)を3年間繰り越すことができる
- 30万円未満の少額減価償却資産を全額経費にできる
これらは「雑所得」では適用されず、「事業所得」があることで適用されます。
開業したら、白色申告ではなく青色申告にされることをおすすめします。
開業届を提出するデメリットは?
開業届を提出するデメリットについても、確認しておきましょう。
デメリットは、主に以下の2点です。
- 失業保険を受けることができない
- 配偶者の社会保険等の扶養に入る資格を失う可能性がある
これらは、事業を副業ではなく専業で行うと決めた人が、会社を退職した後に生じてくるデメリットになります。
会社を退職すると、失業保険を受給できますが、退職後すぐに開業届を提出するとその資格が失われてしまいます。
したがって、開業届の提出時期は、失業保険の受給期間終了後にすることを検討しましょう。
また、開業前までに配偶者の社会保険等の扶養に入っていた場合、開業届を提出することによって扶養の条件を満たさなくなる可能性があります。
その条件は、健康保険組合の規定によって異なるため、開業後も扶養資格があるかどうかは、開業届の提出前によく確認しておきましょう。
開業届提出の有無と確定申告の要否は関係ない?
開業届を提出すると、事業を行っていることを税務署に通知していることになりますので、「確定申告」について考えなければなりません。
実際、開業届を提出した場合、確定申告の時期が近づくと所管の税務署から確定申告書類一式が郵送されてきます。
ここで、次のような疑問が生じてくるのではないでしょうか。
- 開業届を提出したら、売上・収入がなかったり、赤字だった場合でも確定申告は必要なのか?
- 一方で、開業届を提出してなくても、収入がある場合には確定申告は必要なのか?
結論としては、「開業届の提出の有無」と「確定申告の要否」は無関係で、確定申告の要否は事業(または副業)の所得金額によって決まります。
そして、確定申告が必要な所得金額は、その所得が専業によって得られたか、副業によって得られたかで異なり、以下のようになります。
- 専業の個人事業主
所得金額が38万円以上で確定申告が必要 - 副業の個人事業主
給与所得以外の所得金額が20万円以上で確定申告が必要
これに従うと、「赤字の場合は確定申告をしなくてもいい」ことになりますが、青色申告で確定申告をすることによって、損失額を翌年に繰り越して黒字と相殺できるため、所得金額が基準額に満たなくても確定申告することをおすすめします。
そして、サラリーマンの場合は源泉徴収によって納めすぎた所得税が還付されます(還付申告)。
まとめ
副業を開始した場合の「開業届の提出」や「確定申告」の必要性について解説しました。
この記事をまとめると…
この記事のまとめ
- 売上・収入の発生や赤字の有無にかかわらず、新たに事業を開始した場合や事業所等を開設した場合には、1ヶ月以内に開業届を提出する必要がある。
- 開業届を提出することで、社会的信用が得られたり、青色申告ができるといったメリットを受けられる。
- 「雑所得」しかない場合は、開業届の提出は必要ない。
(「事業所得」と「雑所得」の違いを理解することが重要) - 「開業届の提出の有無」と「確定申告の要否」は無関係で、所得金額が専業で38万円以上、副業で20万円以上になると、確定申告が必要となる。
副業を始められる方は、「開業届の提出」と「確定申告」について、早めにしっかりと理解しておきましょう。